今年で3回目を迎える埼玉大学教育学部4年生と保護者による意見交換会。開催の目的は、この4月から小、中学校の教師になる「先生のたまご」である学生たちの不安を軽減させること。「保護者との関係をうまく築けるか」は学生の大きな心配事のひとつだと野村先生。何か問題が発生したとき、教師と保護者間での捉え方が違うと問題が長引き、関係性が悪化する可能性もあります。
「いつか今回の意見交換が役に立てば」という保護者の思いを伝え、事前に決めておいたテーマに沿って意見交換がスタートしました。
<平等性についてどう考える?>
最初に「教師から不平等な対応を受けたことがある、という方はいますか?」と問いかけると、数名の学生が挙手。
例えば、部活動で教師から不平等な対応を受けた経験があるという学生は、自分の心の中で解消しようとしたがうまくいかず、大人になってもそのときの苦しさは忘れられないでいるという心情を語りました。
一方、保護者からは「子どもって先生が大好きなんです」との言葉が。「子どもにとって教師は大きな存在。その後の人生に影響を与えるひとなので、平等に接する気持ちを忘れず、人権を侵害するようなことはしないでほしい」という思いが伝えられました。
<授業中に手を挙げられない子。先生にどうしてほしい?>
学生からは「先生は正解だけでなく、アクションそのものを求めている」との意見が。一方保護者からは「手を挙げて元気に発表してほしいというのが親の願望」との発言も出て、意見交換会は一気に熱がこもりました。
保護者からは、「手を挙げられないのは個性や成長段階であることもあり、突然挙げられるようになることもある」「手を挙げられないという苦手意識も認めてほしい」「手を挙げられなくてもグループでの話し合いには参加しているなどを、全体的に見てほしい」という意見が出ました。
<まさか「いじめ」?学校と家庭はどうする?>
さっそく学生から「具体的に家庭ではどういうことでいじめを察知するんですか?」と質問が投げかけられ、「先生のたまご」としての熱意と頼もしさを感じました。
保護者の気づきとして挙がったのは、「ものがなくなる」「あだ名を嫌がる」「家でしゃべらなくなる」など。特に「「ものがなくなる」ことは大きな事態に進むこともあるので、先生にも気を付けてほしい、子どもにも保護者にも早めに声かけしてほしい」との声がありました。
さらに「いじめ当事者の保護者同士が話し合うとこじれる?」と疑問が挙がったところで、野村先生が諸外国の対応を例に挙げてくださいました。海外では先生がノータッチで、保護者同士で解決してくださいというところが多いのだそう。
日本ほど家庭にコミットしている先生も珍しいのではないかと疑問が投げかけられ、学生も保護者も日本独特の文化の良し悪しを考える場面もありました。保護者間の風通しを良くすることは大切ですね。
<教師と家庭のコミュニケーション>
その流れで「コミュニケーション」についても話し合いました。保護者からは「先生はいつも忙しそうなので、小さなことをわざわざ連絡帳で尋ねるのも申し訳ない」との意見が。逆に、学生側からは「小さいことでも話してもらえるとありがたい」という声が多く、考え方の違いが見られました。
保護者からは、「連絡を取りやすいよう、懇談会などで教師から都度、「気軽にご連絡ください」との声掛けがあるとコミュニケーションがとりやすくなるのでは」という意見も出ました。
「今はまだ珍しいですが、メールやラインなどSNSを使った連絡方法も今後は広がっていくでしょう」と野村先生。忙しい保護者が増えている昨今、教師と保護者どちらにも負担の少ないコミュニケーションの取り方へ、変わっていくのかもしれません。
<「不登校」?学校に行けない子への対応は?>
子どもが不登校をしているという保護者からは「まず「行くか行かないか?」という意志の問題ではなく、「行けるか行けないか?」という身体の問題であることを、学校や先生に理解してほしい」という意見が出ました。
「学校に行かなくてもよいという選択肢を学校側にも持ってほしいですね」他の保護者も言います。ここで野村先生が、「学校に行かないという選択肢にはこんなものがあります」と話してくださったのが以下のことです。
学習をサポートするところ
- ネット学習
- ホームスクーリング
- フリースクール
「フリースクールは学校との連携も始まっているところが自治体レベルであります。国としては教育機会確保法などの法整備を進めているところです」その上で「不登校に関して学校以外からのサポートも大切だと思いますが、どんなものがありますか?」との問いかけが。
保護者から挙がったのは、
- 医療(児童精神科、心療内科)のサポートは大切だし有効
- PTAとのつながりも大切
- 親の会など、親自身の相談先を確保したい
- 子ども食堂やフリースペースなど、地域の居場所は心強い
というもので、「こんな情報を先生があらかじめ持っていてくれると対応がスムーズにいくと思う」とのことでした。
また、子どもが保健室などイレギュラーな登校をした時の対応として、「教室まで行ってみよう?」と誘うのはNGとの意見も出ました。親も学校も欲張らずに待つことが大切で、「絶対に子ども自身が一歩を踏み出せる時は来るから、何年でも待つ姿勢を親と一緒に持ってほしい」とのことでした。
<保護者はどんな教師を望んでいますか?>
最後に学生から挙がった質問です。これから先生になるひとの誠実な問いかけに、保護者はうれしいながらも難しくて頭をひねりました。悩みながらも保護者から挙がったのはこんなこと。
「子どもたちが前向きになれる、プラスの言葉を使ってほしい」「子どもそれぞれの個性を尊重し、先生自身の経験や見聞きしたことに捕らわれない広い視野で寄り添ってほしい」「『いじめNO!』など先生自身の信じることや熱い思いをもっと伝えてほしい」
いざ先生になると、受け持ちの子どもの保護者とはざっくばらんな話し合いがなかなか持ちにくくなるという声もあり、「少しでも事前情報を共有できたならうれしいですね」という声が保護者から挙がりました。
終始メモを取り、質問をするなど熱心に参加してくださった学生たちに、保護者は頼もしさを感じました。子どもを挟んで、学校や先生とはすれ違いを感じる時もあるけれど、こうやって話し合うと、わかりあえて解決策も見つかりそうだということが発見できました。
教師は子どもたちにとって大きな存在です。教師が自信を持って子どもたちと接することはとても大切なこと。そのためには教師へのサポートも必要です。
今回の意見交換会で、4月からの教師生活に向けての不安を軽くできることを願っています。保護者にとっても、教師の立場からの意見を知ることができて有意義な会となりました。
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